A.C.P.C.提携講座 ライブ・エンタテインメント論
提携講座/登壇講師インタビューseason 2
CHAPTER.2
音楽評論家はキュレーター的役割が必要
― 音楽評論家を目指すなら、どんな資質が必要だと思いますか?
平山:結論からいえば、音楽評論家なので、批評的にものを見られることだと思う。それも音楽だけでなく、映画や社会事象にしても同じですね。またキュレーター(美術館等の展覧会の企画、分野に関する情報収集、選別・選定を行なう。学芸員)のような役割も必要だと思います。
― キュレーターの要素とは、一般リスナーに向けて音楽の選定・選別における正確なレコメンド(推奨)を発信していくことですよね。ネットである曲を購入すると、次に類似した曲を推奨してくるパターンがありますが…
平山:あなたがこれを好きだったら、次にこれを聴いた方がいいという提案ですよね。例えば、井上陽水をクリックすると徳永英明が出てくる。こういったレコメンドは、アーティストにもリスナーにも失礼だと僕は思います。だって二人は成熟の仕方がぜんぜん違いますからね。こういったレコメンドでは、次にいい音楽に当たる訳がないんです。他の人はこんなものを買っています、というのはほとんど意味がないですね。ですから、音楽にもしっかりとしたキュレーターが必要です。
― 情報収集は今やネットが主流で、音楽雑誌全盛時代を知る者としては、ちょっと寂しいのですが、平山さんはどう思われますか? 音楽評論家が絶滅危惧種とも言われていますが…。
平山:一般の方々が発信でき、音楽雑誌を読まないでも済むような時代になって、一般の方と大差ないことしか書けない人が滅んでいくのは当然だと思います。これまでが多すぎただけで、残る人は残ると思います。
ただ、やはり姿を変えていくべきで、そういった点ではキュレーションができる人を育てていきたいですよね。この音楽はどこからやってきて、どこに行こうとしているのかを位置付けし、作品に的を絞って、10年後に残るものを当てる気概でやって欲しいですね。これは、耐震強度を調べるようなもので、音楽評論家の使命の究極はそれだと思いますね。
― しかし、現実的に音楽評論家になろうと思っても、なかなか食べられない厳しい世界ですよね。
平山:原稿料収入が1998年を境に50%を切ったという話を学生たちにもしましたが、音楽評論家は原稿料じゃないものでも収入を得ています。ですから他の能力がないとやっていけない。音楽評論家は文章で表現するのが一番だけど、喋れないとだめだし、映像でもアピールできないといけないし、それはこの時代に生きているのですから当たり前ですよね。
― 音楽評論家として、自分の専門カテゴリーの学問として、大学に残って研究するというのはいかがですか?
平山:それはあると思います。今回「弱虫のロック論」を書いて思ったのは、80年代以降、アーティスト本やエンサイクロメディア的な音楽の歴史本はあるけど、アーティトが売れた後の研究をした本がないということでした。売れているのだから本にする必要はない、ということになったのかもしれませんが、商業的に音楽の歴史というのは必要だと思う。僕は、今を研究して欲しい。そういう意味では大学の研究室に残って、文化しとしての音楽は研究されるべきじゃないかな。
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